アメリカ法律ノート」カテゴリーアーカイブ

トラストとトラスティ、仕組みを知りたい[1]




法律ノート 第1063回 弁護士 鈴木淳司
June 25, 2017

旧知の友人がベイエリアを日本から訪れて、久しぶりに一緒の時間を過ごしています。この弁護士の友人のおかげで20年ほど前、法律の本を出版社から出せたので、本当にお世話になっている方であります。しかし前回アメリカでお会いしたのが、20年ほど前ですから、時間の流れというのは恐ろしく早いな、とつくづく感じました。皆さんは暑い夏どのように過ごされていますか。

 

トラストとトラスティ、仕組みを知りたい[1]

さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。

頂いている内容は、かなり長いのですが、いくつかある質問のうち一つを抜き出してまとめると「私と夫は(あるカリフォルニア州外)90代と80代で二人で暮らしています。現在、トラストを作成してあるのですが、ある税務会計事務所の方に相談をしたところ、その事務所の方がトラスティになってくれるということになりました。とても親切な方で最初は感謝したのですが、月500ドルを支払うように要求された上に、トラストを書き直して、今我々が住んでいるアパートは、我々夫婦が死んだら彼女の所有になることになってしまいました。そこで質問ですが、何故、トラスティには無料のトラスティと有料(月500ドル+実費)の2種類のトラスティがあるのでしょうか。アメリカの法律では、有料のトラスティを認めているのでしょうか。」という質問です。

 

州ごとに違う制度

 

今回の質問はカリフォルニア州法にもとづいても、この質問されている方には役に立たないかもしれません。しかし、一方で一般的なことは考えられると思いますので、あくまでも以下は一般論として考えていきたいと思います。

少々前の法律ノートにも書きましたが、高齢者にまつわる問題が最近かなり目についてきています。もちろん、今までも色々経験はしてきましたが、高齢者に対してかなり悪質な行為も最近目にするようになりました。高齢者同士で問題が発生することもあれば、悪質な業者が跋扈するような事例もあります。

もちろん、今回質問されている方のようなケースは、そもそもどのような関係でどのような行為をトラスティが行っているかにもよるのでしょう。

質問だけを見ても具体的にはアドバイスをすることは難しいと思います。

 

トラストとトラスティ、まずは一般論から考える

 

ですので、この質問にいう「トラスティ」と「トラスト」とはなんぞやということに関して、少し今回は考えたいと思います。

トラスティというのは、「受託者」という意味です。何かを引き受けて遂行する人を言うわけですね。それでは、何を引き受けているかというと、それは「トラスト」すなわち信託という書類にかかれているのです。

信託というのは、何度も法律ノートで取り上げていますが、一番わかりやすいのは、たとえば私が信託を作成しますね。会社をつくるようなものだと考えてください。そうすると、信託は人とは別の法人格を有することになります。もう一人子供ができた、という感じでしょうか。そうして、私は、この信託という法人格に自分の持っている財産を託します

米国ではこのように個人が自分たち(夫婦)のために信託をつくった場合には、原則として贈与とはみなされないことになっています。
財産は託しますが、もともと自分の財産ですから、100%自分たちでコントロールするのが一般的です。

たとえば、私が一人で信託を作ってそこに、あまり実際はないのですが自分の財産を入れたとしましょう。そうすると、信託がその財産の所有者ということになります。しかし、一方で、所有者である信託を100%コントロールするのは私なので、結局私自身が所有しているときとなんら変わりはないという状況になるわけです。

 

信託財産は死なないー死後の希望を実現

 

なぜ、このようにわざわざ別の法人格をつくるかというと私はいつか死にますが、信託は人造人間ですから、死なないという特性を利用できるからです。

私が生きているうちに、自分の財産は「このような感じで分けたいな、寄付をしたいな」と思っているとしましょう。そうすると、そのような自分の死後の希望を信託に細かく書いておくのです。そうして私が死んだあと、信託に沿って財産が分配されていくのです。

 

ここで、トラスティというのは、この信託の内容を遂行するための人ですから、私が生きていれば私で充分なのです。私が死んだことを条件として、後継受託者(サクセッサートラスティー)を信託内で定めておけば、私が死んだときには、この後継受託者にバトンタッチされ、財産が分配されていくということになるわけです。

このようにトラスティというのは機能するということになっていますので、まず私が今回の質問を読んで、なぜトラスティが質問者本人ではないのか疑問が湧くのです。ここから次回考えていきたいと思います。

 

 

暑い日が続きますが、水をたくさん飲んでまた一週間がんばっていきましょうね。




 

過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[3]




法律ノート 第1062回 弁護士 鈴木淳司
June 19, 2017

 

先日、将棋のプロ棋士と呑んでいたのですが、今話題の藤井聡太四段について話をすると、やはり強いと言っていました。すごい人がでてきたものです。
その友人がプロ棋士として感心していたのは、藤井四段の羽生善治三冠との非公式戦だということです。ちょっとしたリードを終始保ち続け、ジリジリリードを広げていく力があるようです。興味深いのは友人のプロ棋士が最近小学生などと指していると、かなり強い子が出てきているようなので、将来がとても楽しみですね。週末は暑いですが、皆さんはお元気にされていますか。

 

過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[3]

 

さて、前二回「以前(10年ほど前)、学生のとき、飲酒運転で有罪の判決をカリフォルニア州で受けました。当時、罰金を支払い、指定された講習などすべて裁判所から言い渡されたことは終了しました。その後、警察にかかわるような問題はまったくありません。現在、トランプ政権になって移民に厳しくなってきたということを聞いています。私は現在就労ビザでアメリカに滞在しているのですが、以前、飲酒運転があったということで、強制送還などになるのではないかと不安になっています。色々検索すると、犯罪歴を抹消する手続きがあるということがみつかりました。この抹消手続きというものはどのようなものなのか、やはり私はやっておくべきなのか、教えていただけないでしょうか」という質問を考えてきました。

 

軽罪の場合、前科抹消手続きを進めやすい

前二回、前科抹消手続き(エクスパンジメント)を考えてきました。
今回は、実際にどのような条件が揃うとエクスパンジメントができるのか、考えていきたいと思います。

前回、考えましたが、エクスパンジメントが許されている罪の種類は、各州法で決められていますが、通常軽罪(Misdemeanor、いわゆる一年以下の禁固刑が法定されている罪)であれば、認められているはずです。また、刑の種類によっても、認められる場合と認められない場合が存在します。

 

飲酒運転での有罪判決の場合

今回質問されている方は飲酒運転で有罪判決を受けているようです。この例を使って考えていきます。

飲酒運転は、カリフォルニア州でも他州でも、エクスパンジメントの対象とされています。
飲酒運転で有罪判決を受けると、通常は、

(1)罰金、
(2)安全講習の参加、
(3)コミュニティーサービスまたは拘留刑、
(4)保護観察期間

がセットになって言い渡されます。

通常、(2)については週一度、15週間行われ、講習終了の通知が裁判所になされます。
(3)については、どのような様態の飲酒運転かによって言渡しにばらつきがありますが、これも、初犯であれば、数日で終わるときもあります。

(4)についてですが、通常3年間は保護観察期間となり、この3年間は基本的におとなしくしていなさい、再犯は許されませんよ、というメッセージが込められています。

エクスパンジメントを申請するには、(1)ないし(5)の要件を満たしたうえで行うことになります。
(1)ないし(4)については、数週間レベルで終わらせることができますが、(5)については、原則として数年レベル、飲酒運転であれば、3年間が必要ということになります。そうすると、今回質問されている方についても、有罪の言渡しから3年間が経過した時点でエクスパンジメントを申請することになろうかと思います。

 

手続きはそれほど難しくない

エクスパンジメントの手続きは、そこまで難しくなく、上記の例でいえば、(1)ないし(5)の記録は言渡し裁判所にあるわけですので、保護観察期間、何も問題はありませんでした、という内容を添えて申請すれば、ほぼ機械的に認められることになります。

ですので、前科がある方は、とくに外国人はこのご時世ですから、エクスパンジメントが可能かどうか一考されると良いと思います。

 

未成年の時の罪はエクスパンジメントの幅が広い

それから、エクスパンジメントでも、未成年のときに言い渡された罪は、通常の事件よりも、より簡単にエクスパンジメントをすることは一般的に可能です。

ですので、一般の刑事事件よりも積極的にエクスパンジメントを利用されることをお勧めします。

 

過去より将来が大切ーエクスパンジメントも将来への一手段として

人間というのは、過ちを犯す動物です。重要なのは、過ちを繰り返さないことですし、過去より将来の方が重要です。ですので、将来を考えるためのツールとして、エクスパンジメントを位置づけておくと良いと思います。

 

 

次回また、いただいている質問にお答えしていきたいと思います。

カリフォルニアはもう夏真っ盛りのような気候です。バテないように注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。

 



過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[2]




法律ノート 第1061回 弁護士 鈴木淳司
June 14, 2017

週末に、ルイジアナ州に収監されている受刑者に面会するために、その方の家族と一緒に飛びました。道中、乗換え便が数時間遅滞して、結局目的地である、かなり田舎の空港に着いたのは夜中でした。レンタカー会社も閉まっているし、携帯電話も入らない。そして人もいない空港で途方にくれました。かなり大変な思いをしましたが、皆さんは平穏な週末を過ごされましたか。

 

過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[2]

 

さて前回から考えてきた「以前(10年ほど前)、学生のとき、飲酒運転で有罪の判決をカリフォルニア州で受けました。当時、罰金を支払い、指定された講習などすべて裁判所から言い渡されたことは終了しました。その後、警察にかかわるような問題はまったくありません。現在、トランプ政権になって移民に厳しくなってきたということを聞いています。私は現在就労ビザでアメリカに滞在しているのですが、以前、飲酒運転があったということで、強制送還などになるのではないかと不安になっています。色々検索すると、犯罪歴を抹消する手続きがあるということがみつかりました。この抹消手続きというものはどのようなものなのか、やはり私はやっておくべきなのか、教えていただけないでしょうか」という質問を考えていきましょう。

 

前科抹消手続きーエクスパンジメント

 

前回、前科抹消手続き(エクスパンジメント)を考え始めました。
エクスパンジメントの手続きは、州ごとにかなり実務が違いますので、今回はできるだけ一般的にあてはまる内容を考えていきたいと思います。

 

抹消内容には制限ありー開示すべき場合

 

まず、エクスパンジメントの手続きですが、刑事事件の前科を抹消するとしても、抹消される内容の限度があります。このことをよく理解しておいていただきたいと思います。

要するに、前科の抹消が裁判所に認められたとしても、一定の場合には、前科を申告しなければなりません。

この一定の場合というのは、対行政関係です。
たとえば、米国の入国管理関係や、米国の行政関係の申請などを行う場合を指します。ですので、前科がエクスパンジメントによって抹消されたとしても、ビザ、永住権、および市民権の申請時には、前科を開示しなければなりません。

もちろん申請書のなかで許されていれば、前科が抹消されたという事実は言及しておくべきだとは思います。

 

私人関係における「前科はありますか?」

 

一般的な生活を送っていると、今までに前科はありますか?ということが聞かれる場面があります。たとえば、就職活動をしている場合や、家を借りようとする場合などが考えられるでしょうか。

このような私人関係の場合には、抹消手続きが裁判所に認められれば「前科はない」と申告して問題なくなります。

 

州ごとの違いには細心の注意を

 

注意したいのは、政府関係の仕事に就業したい場合には、前科について申告しなければならない可能性が高いです。基本的に連邦政府に関しては、前科は申告しなければなりません。州政府に関しては各州の法律に規定されています。

エクスパンジメントというのは基本的に州法にもとづいて決められているで、前科となったもともとの罪が審理された裁判所の管轄となります。

そうすると、アラバマ州で言い渡された刑については、そのアラバマ州の裁判所に適用される法律を考えなければなりませんし、カリフォルニア州で言い渡された刑については、カリフォルニア州の法律によることになります。

 

エクスパンジメントに関わる法律は各州で異なりますが、どのような罪が抹消の対象になるかも違いがあります。たとえば、今回質問されている飲酒運転の罪のような場合、ほとんどの州で軽罪(Misdemeanor、最高刑が禁錮1年以下の罪)に関しては抹消の対象となります。
一方で重罪(Felony、最高刑が禁錮1年以上の罪)だと抹消を許さない州もあります。

ですので、現在どこに住んでいるか、などにかかわらず、刑を言い渡した裁判所に適用される抹消手続きの法律を解析する必要があります。

 

今回質問されている方は、カリフォルニア州の州地方裁判所で飲酒運転(軽罪)の罪で有罪となっているようです。そうするとカリフォルニア州法では飲酒運転の罪は、抹消手続きの対象になりますので、抹消の申請は可能となります。

ただし、抹消の申請をするには、言渡しを受けた刑に付された条件を全てクリアーすることが前提となります。

ここから次回考えていきたいと思います。

 

 

私はまだ、疲れが完全に回復していないですが、良い天気を楽しみながら、また一週間がんばっていきましょうね。



過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[1]




法律ノート 第1060回 弁護士 鈴木淳司
June 10, 2017

なんだか、最近刺し身などの生モノに対してあまり胃腸が機能してくれなくなってきたような気がします。もちろん、刺し身も寿司も好きなのですが、食事のときに酒ばかり飲んでいて、胃が弱っているのでしょうか。全体的に生きている過程で、体調が変わってきているのかもしれません。皆さんも生きているとそういった体調の変化はあるものでしょうか。皆さんは美味しいものを食べられていらっしゃいますか。

 

過去の飲酒運転と有罪。犯罪歴抹消はできる?[1]

 

さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。

いただいている質問は、まとめると「以前(10年ほど前)、学生のとき、飲酒運転で有罪の判決をカリフォルニア州で受けました。当時、罰金を支払い、指定された講習などすべて裁判所から言い渡されたことは終了しました。その後、警察にかかわるような問題はまったくありません。現在、トランプ政権になって移民に厳しくなってきたということを聞いています。私は現在就労ビザでアメリカに滞在しているのですが、以前、飲酒運転があったということで、強制送還などになるのではないかと不安になっています。色々検索すると、犯罪歴を抹消する手続きがあるということがみつかりました。この抹消手続きというものはどのようなものなのか、やはり私はやっておくべきなのか、教えていただけないでしょうか」というものです。

 

移民政策の厳格化、実は以前から

トランプ政権になって、まず不法移民について厳しい対応を行っていくということを言明していますが、そもそもオバマ政権のもとでも、不法移民はそれなりに厳しく対応されていました。

スポットライトがあたっていた論点としては、トランプ政権は、不法移民の子供がアメリカで産まれていた(ということはアメリカ国籍を持っている)としても、不法移民を強制送還するという態度を取ったことです。オバマ政権は、子供がアメリカ国籍である場合、不法移民の強制送還には否定的でした。

このトランプ政権の不法移民の強制送還の姿勢がまずスポットライトにあたりましたが、次は、アメリカへの入国審査の厳格化にスポットライトがあたっています。

中東6カ国に対する厳しい行政の対処は最近ニュースにもなっていましたし、私が書いている「移民法ブログ」(「3/16発効の大統領令、日本人への影響」http://momsusa.jp/archives/3546)でも取り上げました。

今後は、犯罪歴がある外国人に対しても審査が厳しくなる傾向は続くとは思われます。こういった背景から、今回の質問につながってきているのだと思います。

 

犯罪歴の抹消ーExpungement

さて、今回質問をいただいている「犯罪歴の抹消」ですが、法律用語ではExpungement(エクスパンジメント) と呼ばれています。

あまり、一般的には聞き慣れない単語ですね。今回はこのエクスパンジメントという手続きについて考えていきたいと思います。法律用語では「手続」といいますが、ここでは手続きという一般的な書き方をしていきます。

 

犯罪歴の集約と保管・共有

従来、刑事事件で、有罪を認めると、犯罪歴については、その有罪を認めた裁判所に保管されます。アメリカでは、どこかの官庁が、前科について一括して保管しているわけではなかったのです。
もともと、アメリカには、裁判所といっても連邦裁判所もあり、州の裁判所もあります。州の裁判所でも多岐にわたっていますので、なかなか一つの機関で情報を整えることができませんでした。

同時多発テロ事件以降、連邦政府の主導により、前科の情報共有が様々な政府機関によって行われるようになりました。デジタル情報の共有が容易になってきた時期だったこととも重なります。

 

入国管理局も情報共有

現在では、アメリカの入国管理局も、各裁判所の前科の記録を共有しています。

したがって、移民関係においても、前科はビザの申請、再申請そして再入国時に避けることはできず、向かい会わなければなりません

したがって、10年前といっても、今回質問されている方のように前科がある場合には、慎重にならなければいけません。

 

上記を踏まえて、次回は、エクスパンジメントの内容および前科と移民法関係について考えていきたいと思います。

 

日本は梅雨の季節でしょうか。体調に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[3]





法律ノート 第1059回 弁護士 鈴木淳司
May 28, 2017

北朝鮮がミサイルを頻繁に発射していますが、もう実際に被害がでる可能性も出てきました。なんでも、低空で飛ぶミサイルだとなかなか撃ち落とせないという現実もあるようです。もちろん、日本政府は抗議を繰り返していますが、実際に対応は可能なのでしょうか。なんでも、ある詳しい人と飲んでいて憂慮を伝えると「日本は、アメリカ任せのところがあるんだよね」という話をしていました。本当に心配になってきます。

 

術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[3]

さて、前二回考えてきた、「私の配偶者がある病院で腹部の手術を受けました。手術のあと、あまり回復もせず、再度手術をしなくてはならない状況が発生しています。医療機関に対して、不信感を抱いています。もちろん、最初の手術の前に、色々説明を受けていて、全快する可能性も高くはない、とは聞いていました。しかし、再手術が必要とは聞かされていませんでした。夫婦で悩んでいるのですが、やはり法律的に責任をはっきりさせたいと思っています。医療機関に対する訴訟というのは一般的に難しいのでしょうか。」という質問を続けて考えていきましょう。

 

過失の評価は主観だけでは足りない

前回「ミス」があった、「ポカ」があった、という評価は、自分の主観だけでは足りず、第三者がどのように思うのかが法律的には重要である、ということを考えました。難しい手術で全治しないから、不満がある。そうすると、すぐに訴えられるとは言えないわけです。

その難しい手術をしたり、経験があったり、学識がある人がどのように考えるのかが重要なのです。

そうすると、弁護士としては、医療過誤があった、と相談を受けた場合、その場で判断はできず、協力してもらえる医師と良いネットワークを持っていることが重要です。私が知っている医療過誤をよくやっている弁護士は、いつも医師のネットワークとつながって情報交換をしています。どの弁護士でも医療過誤ができるわけではなく、ちゃんと医師や医療関係の人たちとネットワークを持っているかどうかが、カギとなります。

また、医療過誤については、一人の弁護士の意見を聞くだけではなく、できることなら色々な意見を聞いて、冷静な判断をすることも重要だと思います。

 

訴え出るときのルールー出訴期間は短い

さて、「ミス」があった、「ポカ」があったであろうと、いうことになると、過失や契約の不履行を求めて出訴することになります。

出訴については、各州でまちまちに法律で決められていますが、カリフォルニア州では、損害が生じてから1年間以内、というのが原則です。例外的に場合によっては、損害が生じてから3年間以内、ということになっています。どちらにしても、あまり長期の設定がされていませんので、注意が必要です。

 

慰謝料額の上限

それから、交通事故のような一般的な過失を問う事件とは違う制限が医療過誤の事件には設けられています。すなわち実際に手術から生じた損害以外の、慰謝料(Pain and Sufferingなど)については、最高で25万ドルに上限設定されています。この上限設定は1970年代に設定されたまま、変わっていません。
また、弁護士費用も成功報酬で原告側弁護士が報酬を受ける契約がされている場合、弁護士報酬についても上限が細かく設定されています。

医療過誤事件は、通常の過失を基礎とする訴訟に比べて、かなり制限されている部分があるのです。

この医療過誤事件の制限は、医師や医療機関が安定して業務に専念できるための法制度であると言われていますが、実際に利しているのは、保険会社であるといった批判も存在しています。また、70年代に決められた慰謝料の上限は、額が現在でもまったく変わっていないため、実際に被害に遭った人たちの損害の回復が充分ではないのではないか、という疑問も出ています。

 

総じて難しい面が多い医療過誤訴訟

上記でわかるように、医療過誤訴訟というのは、簡単ではなく、様々な制限もあるのです。
また、もともと、「ミス」があったのか、「ポカ」があったのか、といった問題についても、協力医師を探すという必要性もでてくるのです。

今回質問されている方についても、ご家族の再手術が必要である、という話ですが、質問の内容だけを見ても、なかなか「ミス」があったか、判断することは難しい状況です。やはり、医療過誤については、協力医師のたくさんいる弁護士の意見を具体的に聞いて、どのように対応するのかを考えていかなければならないと思います。

 

次回また新しくいただいている質問を考えていきましょう。夏のような日もでてきましたが、まだまだ春の花も楽しめますね。できるだけ外出して、自然を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[2]




 

法律ノート 第1058回 弁護士 鈴木淳司
May 21, 2017

サンフランシスコの家賃の高さはなんでも世界一高いそうですが、一般的な物価についても例外ではないかもしれません。先日、「炭酸が飲みたいな」と思って、事務所の近くの洒落たコーヒーショップでどこにでもある缶の炭酸飲料を買ったのですが、2ドル50セントと言われて恐怖を覚えました。
ちょっと郊外に行けば、一ダースで5ドルの商品です。そうなると、一気に飲むことはできず、味わって飲んでしまう自分もどうかとは思いますが、まあ、もういい加減にしてほしいと思ってしまいます。

 
術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[2]

 

さて、前回から考えてきた「私の配偶者がある病院で腹部の手術を受けました。手術のあと、あまり回復もせず、再度手術をしなくてはならない状況が発生しています。医療機関に対して、不信感を抱いています。もちろん、最初の手術の前に、色々説明を受けていて、全快する可能性も高くはない、とは聞いていました。しかし、再手術が必要とは聞かされていませんでした。夫婦で悩んでいるのですが、やはり法律的に責任をはっきりさせたいと思っています。医療機関に対する訴訟というのは一般的に難しいのでしょうか。」という質問を考えていきましょう。

過失による責任追及か契約違反による責任追及か
 
前回、「過失」がある場合、それから契約に反した場合、医療機関は責任を負う可能性はでてきます。ただ、過失にしても、契約違反、すなわち債務不履行については、自分が「損害を被った」というだけでは足りない、というところまで考えました。

 

「主観」では足りない
 
人間というのは、何か自分に都合が悪いことが生じると、そのことを人に転嫁したくなるときがある弱い生き物です。もちろん正当な場合もあるのですが、他人から見ると「そうかなぁ」と思う場合もあるわけです。自分がどのように物事を見るのか、というのは「主観」といいます。

一方で、他人がどう判断するのかを「客観」といいますね。裁判では、基本的に客観的に判断することが基本になっています。アメリカの裁判では最終的に陪審員がどう考えるのかが気にかかるところです。自分以外の人がどう思うかが重要なのです。

 

医療行為における「過失」は?
 
医療行為に過失があったのではないか、という場合を考えましょう。

過失というのは、前回考えましたが、何かポカがあったのか、ということを考えます。何かポカがあったのか、ということを言ったとしても、人によって判断の基準が変わってきますね。そうすると、医療行為のように高度な専門的な知識が必要な内容に関しては、最終的に一般の人たちが、「ポカがあった」かどうかを判断しますが、その判断の基準については、同じような医療行為をする人の基準となります。

そうすると、私を含め一般の人たちが「このような損害があったのだから、何か問題だろう」と思っていても、医療行為をしている現場の医師達の立場から言うと「何も問題ない、逆にこのような状況ではよくやった」と思われる場面も出てくるわけです。

そうすると「ポカ」とか「ミス」と法律的には言いにくくなるかもしれません。
「過失」というのは時代によっても変わってきますし、業界の考え方でも変わってくるものです。法律上の判断というのは「判例」とか「裁判例」という形で現れてくるのですが、どこまでが「過失」なのかというのは、時代によって変わってきます。

 

実際には判断は極めて難しい
 
そうすると、弁護士が医療過誤の相談を受けても、明らかに「ポカ」だな、とか「ミス」だな、といえるような事例であれば、意見は言えるかもしれませんが、多くの事例ではかなり意見が割れる状況があります。

よく、医療器具を体内に置き忘れていたといったような状況があります。一般的にもうっかり起こすミスはありますが、このような明らかな事例は「ミスったな」といえるかもしれません。それでも、事例によっては違った判断になるかもしれませんね。

一方で、今回質問されているような事例は明らかにミスやポカがあったといえるのか、といえば、そうは言えないかもしれません。そうすると、裁判の先例を見ながら、判断することができるのかどうかということを考えなくてはいけません。

 

専門家の意見が鍵になる
 
しかし、法律的に簡単に判断できるわけではなく、意見をもらえる可能性のある分野の医師にその分野での意見を聞かなければ、過失があるのかどうかが判断できないことになります。そして、その意見がカギを握ることになります。ここから次回考えていきたいと思います。

 

 

ベイエリアも暑い、日本も暑い、なんだか夏になってしまったような気がします。ダラダラする気を引き締めてまた一週間がんばっていきましょうね。

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術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[1]

医療



法律ノート 第1057回 弁護士 鈴木淳司
May 18, 2017

雨がやんで、季節も良くなったので、私の事務所の人達とバーベキューを楽しみました。私は風邪気味で途中でダウンしてしまいましたが、楽しい時間を過ごしました。通常、私は事務所の人達を飲み会に誘いません。私が言うと皆、来なくてはいけない気持ちになると思い自重しています。年に一回は皆でクリスマスパーティーを楽しむのですが、そのほかにはほとんどない貴重な機会でした。まあ、私の事務所は皆仲が良く、いつもワイワイ仕事をしているので、あまり変わりはない状況ではありました。皆さんは気分転換をされていますか。

 

術後の経過が悪い。医療機関の法的責任を追及したい[1]

さて、今回から新しく皆さんからいただいている質問を考えていきたいと思います。かなり長いメールをいただいています。
できるだけ簡略化して、いただいている質問をまとめると「私の配偶者がある病院で腹部の手術を受けました。手術のあと、あまり回復もせず、再度手術をしなくてはならない状況が発生しています。医療機関に対して、不信感を抱いています。もちろん、最初の手術の前に、色々説明を受けていて、全快する可能性も高くはない、とは聞いていました。
しかし、再手術が必要とは聞かされていませんでした。夫婦で悩んでいるのですが、やはり法律的に責任をはっきりさせたいと思っています。医療機関に対する訴訟というのは一般的に難しいのでしょうか。」という質問です。

 

医療過誤ー過失による法的責任を問う

今回考える相談は、一般的に医療過誤と言われる部類の質問です。

医療過誤というのは、一般的に、医師や医療機関に「過失」があったかを問う訴訟です。
一般的に、「過失」があって、損害が生じた場合には、過失があったと認められた人や団体が損害を賠償する責任を負います。これは、日本でもアメリカでも基本的には変わりません。

法律的に問題のある間違いを発生させて他人に損害を発生させたら、その間違いを起こした人や団体が責任を負うということは、人が生きていくうえで、色々な場面で発生します。

 

債務不履行ー契約違反として責任を問う

もうひとつの面をみると、今回のように手術を受ける場合、手術をする側と受ける側の間に契約が存在します。
手術する側にされる側が対価を払って、合意した内容の手術をしてもらうという面があります。

この契約に沿っていない手術が行われた場合には、契約をちゃんと履行していないということになり、手術した側に債務不履行責任が生じる場合があります。このコンセプトも一般的な「契約」ではよくみかける責任ですし、皆さんが生活していれば目にすることも多いと思います。

 

「過失」を考える

本論について踏み込んで考える前に、すこし「過失」と「契約」という基本的な法律的なコンセプトと今回考えてみたいと思います。
「過失」というのは、かなり広汎なコンセプトです。ポカをした、という言い方だとわかり易いかもしれませんね。ただ、人がなにか間違いを犯した、というのは、何を基準に言うのか、なかなか法律家でもわかりにくいところであるのが事実です。何が「ポカ」なのか、間違いないのか、というと、度合いの問題もあります。

交通事故を考えてみてください。

飲酒運転で人に怪我を負わせれば、通常の人が話を聞けば、「それは悪いよなぁ」ということになるでしょう。法律家にとっても、そのように判断することになろうかと思います。
一方で、スーパーマーケットの駐車場で、低速で動いている車同士がぶつかってしまったような場合、どちらの方が悪いのか、なかなか判断しづらいこともあると思います。
「自分は悪くない、他人が悪いんだ」ということは簡単ですし、大人になっても、いつでも自分は悪くない、と思う人もいるのも事実です。

 

主観だけでは「過失」を問えない

しかし、人の「過失」を問う場合、「君のやったことが悪いんだよ」ということを法律的に言うわけですから、自分の主観だけで相手が悪いということはできません

そうすると、「過失」というのは、第三者の目からみても、「悪いよなぁ」と判断できることが前提になります。法律的に難しく言うと、過失は客観的に判断されなければなりません。
少々難しい話を考えていますが、我慢してください。
できるだけわかりやすいように次回も続けて考えていきたいと思います。
カリフォルニアは春真っ盛りという感じです。天気や花を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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さてどうしたものか-弁護士にできることできないこと





法律ノート 第1057回 弁護士 鈴木淳司
May 09, 2017

週末に法律ノートを書こうと思っていたのですが、ある憧れのゴルフコースでプレーすることができて、先送りにしていました。いやー、スポーツはいいですね。奥深いし、怪我さえしなければ、身体にも精神にもとても良いと思いました。以前私はダイビングをよくしていたのですが、ゴルフも同じで、場所によって全然違う体験ができるところが楽しいと感じています。皆さんは天気を楽しまれていますか。
さて、今回は皆さんからの質問をいったん休ませていただき、ある状況について考えさせてください。一応、フィクションということで、具体的な特定の人物について書いているわけではないということで、考えていただければと思います。
ある70代後半の夫婦の話です。旦那さんは数度離婚歴があります。2人は50代になってから、結婚を決意します。お互い仕事もしていて、財産もあり、それぞれ何十年も別の道を歩いてきました。旦那さんにも、奥さんにもそれぞれ子供がいます。このようにすでにお互い自分の人生を背負っての結婚となったわけです。

いくつになっても恋愛は良いことですね。アメリカでは、婚前契約(プリナプチュアル・アグリーメント)を夫婦間で締結することが少なくありません。それぞれ持っている財産は、それぞれに帰属して共有財産とはならないとする契約です。再婚の場合などは、特に珍しいことではありません。この二人も婚前契約を締結していました。婚姻前にそれぞれが持っている財産は、それぞれの財産としてはっきり分けておこうというわけです。

私は、奥さん側の財産について相談を受け、自分の血族に財産が行くような形の相続関連書類を整えました。これは20年ほど前の話です。それから、何度も内容を変更しましたが、相続割合の変更のみで、基本的に自分の血族に財産を相続させる意思は変わりませんでした。婚前契約があるから旦那さん側に相続をさせることはないわけで、妥当な内容でした。

旦那さんから、最近連絡があり、奥さんが遺言等を書き換えたいということでした。旦那さんは、奥さんが考えを変えて、奥さんの財産の半分を旦那さんに相続させたい、ということを連絡してきました。

私が面会すると、奥さんは、階段で転び、ずいぶん衰弱していました。旦那さんに席を外してもらい、遺言等を本当に書き換えたいのか、旦那さんとよく話をしているのか、と聞くと、そのような会話をしていないということでした。奥さんはしきりに旦那さん側の遺言等はどうなっているのかを気にされていたので、旦那さんにそれを見せてもらうと、結局旦那さん側の財産は最終的に旦那さんの血族に相続されるように設定されていました。奥さんにそのことを説明し、どのようにしたいのか聞くと、旦那さんと同様の形が良いということに収まりました。結局、自分の血族に財産が相続されるという内容です。

お互いに同様の内容ですので、フェアでもありますし、今まで何十年も私が聞いていた内容とブレていません。細かい微調整をして、書類を整え、無事に相続書類をアップデートしました。相続書類の原本は私の所属する事務所で保管することになりました。
アップデートが終わった数日後、もう80歳になろう旦那さんから、妻の相続書類を渡してほしいと依頼がありました。旦那さんであろうと、私の直接のクライアントではありませんので、奥さんからの承諾書がなければ、渡せないことを言うと、奥さんのサインの入った承諾書を送ってきました。

そこで、相続書類を送ると、ものすごい剣幕で、訴えるぞ、などと言ってきました。訴えられるものなら、どこにでも訴え出て見ろよ、と思いましたし、そもそも、旦那さんの財産ではないわけですから、訴える理由もないわけです。弱っている奥さんの財産の半分を自分のものにしようと思って私に連絡してきたのですが、それが成就しないので、怒り出しているのです。

私は暗澹たる気持ちになりました。弱っている奥さんの介護をしているのは、旦那さんであることは間違いないので、奥さんとしても、彼の言うことを「はいはい」と聞いてしまうわけです。私は弁護士というだけで、毎日その奥さんと会うわけではありません。そうすると、自分が弱っていれば、旦那さんに頼るしかない、ということになってしまい、ある意味コントロールされてしまってもおかしくない状況です。

旦那さんは、私に対してもう仕事をしなくても良い、とお節介を焼いて言ってきますが、私は心配でしょうがないわけです。せっかく、自分の意思で奥さんは相続書類をアップデートしましたが、旦那さんは、事情を知らない別の弁護士のところに連れて行って、自分に財産が入るような形の相続書類を用意させ弱っている彼女にサインをさせるかもしれません。物理的に近くにいる人間の方が彼女をコントロールし易いに決まっていますね。

弁護士として、奥さんの意思を守るために何ができるのか、このところずっと悩んでいます。さてどうしたものか。


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遺言やトラストがないと財産没収?!-法定相続に自由度をプラス





法律ノート 第1056回 弁護士 鈴木淳司
May 14, 2017

 

日本はゴールデンウィークということもあり、仕事や勉強に区切りをつけて、ゆっくりされている方も多いのではないでしょうか。日本は祝日がかなり多い国ですね。カリフォルニアでも天気が良くなって来ました。
先週読んだ記事のなかに、シリコンバレーで酔っ払いが100キロ以上ある警備ロボットと戦いになって横転させたというニュースがありました。暖かくなってきて、屋外で酔っ払って問題となったようですが、もう人がロボットと戦うようなシナリオが出てきているということですね。考えさせられます。

 

トラストや遺言を作っておかないと、財産は政府に没収されるのですか?

さて、今回からまた新しくいただいている質問を皆さんと一緒に考えていきましょう。
前回まで考えてきた遺言執行者のトピックに似ているところもあります。

いただいた質問をまとめると「遺言やトラストを作っておかないと、最悪の場合財産を政府に没収されてしまうということを、トラストのセミナーで聞きました。これを聞いて、夫婦で話をして、何かしなければと思っています。万が一政府に財産を没収された場合、それを取り戻す手続などはあるのでしょうか?」という質問です。
今まで弁護士をしていると、何度もこのような質問に出会ってきたのですが、最近になってその原因がわかってきました。このような情報を得ている方たちはどうも、トラストのセミナーなどに参加してそこで情報をもらって来るようなのです。もちろん法律事務所などトラストを作って欲しいと思う側が主催するセミナーであれば、色々トラストや遺言を作るように誘導するでしょうね。そうであれば、政府に取られちゃうよ、的なことを言うのかもしれません。
ただ、そのようなセミナーは一種の情報として聞き流しておけば良く、具体的に相談をしながら何が良いのか確認することが重要だと思います。

 

財産没収はされませんー法定相続制度

まず、最初にクリアーにしておきますが、セミナーで弁護士が話してようが、誰が話してようが、遺言やトラストがなくても、財産を没収されると言うことはまずありません。

まず、遺言やトラストがあれば、皆さんがなくなったときに、その遺言やトラストに沿った内容で、相続財産が分配されていきます。そのためのツールですから当たり前です。
そして、遺言やトラストがない状態で亡くなる方たちもたくさんいますが、いきなり政府に財産が取られてしまう訳ではありません。法定相続(intestate)といって、法律で自分の血族を含む家族にどのように分配されるのか決まっているのです。

天涯孤独、いとこもはとこも、まったくいない、という方で、法律に照らして、まったく法定相続人が存在しないごく例外的な場合には州の財産に組み込まれる可能性はごくわずかにありますが、このような極端な例を除いて、いきなり政府に財産が取られるということはないのですね。

法定相続制度は日本でもアメリカでも存在する制度ですから、そこまでナーバスに政府に取られてしまうと考えなくても良いと思います。

 

法定相続制度ー死後は近親者に財産分与

法定相続制度は法律ノートでも何度か考えましたので、また皆さんの質問を待って考えていきますが、概略だけ考えておくと、まず遺言やトラストがなければ、配偶者および子が法定相続人となるのが一般的で、これらぼ近親者がいない場合には、血族を親等の近い方から法定相続人とするのがかなり共通した考え方です。

 

遺言やトラストは法定相続にプラスするもの

そうすると、一人っ子で親も親の兄弟も祖父母も子供もいないなどという限られた場合には、誰を相続人にするのかを、遺言やトラストなどで考えておかないとややっこしいことになるかもしれません。法定相続を利用することも別に少なくありませんから、遺言やトラストを作らなければならないという義務感はあまり切実に持つ必要はないと思います。

どちらかというと、法定相続で使われるような内容をそのまま遺言やトラストにするケースも少なくありません。

 

法定相続の問題点と遺言・トラストのメリット

じゃあ、なぜこのようなセミナーは遺言やトラストを勧めるかと言えば、それは自分たちの利益になるように誘導しているからなのですが、じゃあ、法定相続に任せておけばそれはそれで、いいではないか、と思われる方もいらっしゃると思います。

弁護士に関わるのも面倒だし、書類の作成も厄介だ、と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。まあ、それもごもっともなのですが、法定相続になったときの問題点を次回考えていきましょう。

 

これから、バーベキューにも良い気節ですね。
アウトドアを楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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『遺言執行者になって欲しい。』どうする?[3]




 

法律ノート 第1055回 弁護士 鈴木淳司
April 25, 2017

やっと雨が降り止んで、晴れの日が一週間は続く、というラジオのニュースを聞いて、チャンスだと思って、洗車をしましたが、翌日雨が降りました。昔から、私が洗車をすると雨が降るという運命を持っているようなのですが、今回もまたやられました。干ばつで困っている地域の方は今度私を呼んでください。洗車しにいきますので。皆さんは週末いかがお過ごしでしたか。

 

『遺言執行者になって欲しい。』どうする?[3]

さて、前二回、「ベイエリアで、長期に渡って住んでいる者です。すでに、子供達は巣立っているのですが、子供の学校関係を通しておつきあいを長い間続けている夫婦から、遺言で遺言執行者になってくれないか、と打診を受けています。その夫婦のお子さんも大きくなり、日本に戻ってしまったため、今は、夫婦のみがカリフォルニアに住んでいる状況です。遺言の執行など、私はまったく知りませんが、できることなら力になってあげたいとも思っています。遺言執行者とはどのようなものなのか、教えていただけないでしょうか」という質問を考えてきました。

今回も続けて考えていきましょう。

 

選任後の手続き

今回は、遺言執行者に選任された場合に、どのように実際の手続きがながれていくのか、みなさんと一緒に考えていきましょう。

前回、遺言執行者に選任されたとしても、いきなり大きな仕事を引き受けるということには実際にならず、通常は、弁護士に委任をして、裁判関係の手続きを代理してもらうという流れになります。弁護士が出廷すれば遺言執行者はほぼ裁判所に行く必要はありません。報告だけはちゃんと受けている必要はありますけれども。

 

遺言執行者の具体的な役割ー財産の確定と分配ー

さて、では遺言執行者として、具体的に何をするかというと、内容は遺言に書いてあります相続財産がどのくらいあるのか確定して、遺言に書かれた相続人に対して分配をしていくということになるのです。つまり、どの程度の財産があるのか全体像を調べて、そのうえで、割合などに応じて分配をすることが仕事になるということです。

まず、財産がどの程度あるかを調べなければいけませんが、通常は遺言にかかれています。
しかし、人間は生きているうちに、銀行口座を変えたり、家を買ったり売ったりするなど、変化が生じます。ですので、遺言を作成した人がどのような財産を持っているのか、手持ちの資料や、情報の調査をして全体像を明らかにします。

具体的に、どのような書類があるのか探したり、郵便の内容を確認したり、遺言執行者がしなければならない仕事になるかもしれません。家族や友人にどのような財産があるのかを聞いたりしなければならないでしょう。また、家が残されていれば、その家の管理をしなければならないですし、動産があればその動産の管理もしなければなりません。車や宝石などが主な動産でしょうか。

 

遺言者に代わって財産処分する権限

これらの動産や不動産を売却して換価することも一つの遺言執行者の仕事になります。もちろん代理している弁護士がどの程度深く関わってくれるのかにもよりますが、不動産の価値を把握したり、色々な業者に連絡するといった業務もあるわけです。

このような業務を行うについて、遺言執行者は、他界した遺言者の代わりになって行うのですが、裁判所から、遺言執行者にその権限を与える書類をもらえるので、問題なく遂行できるのです。金融機関にある口座などにしても、権限があるので、内容を確認することができます。

 

かかる費用は相続財産から拠出

以上のような業務を行うにあたって、コストが発生します。家や動産の維持、財産の評価など、様々な費用がかかることになります。これらのコストは遺言執行者が捻出するわけではなく、通常相続財産から支払われることになります。

 

相続財産の分配、裁判所の見守り

全体的な相続財産が把握できると、今度は相続人の人たちにどのように分配するかを考えていきます。

この財産の分配が多くの相続関係の紛争になり得るのですが、とにかく遺言に沿って分配がなされます。遺言執行者は、相続される財産が、相続人に渡ることを確認しなければなりませんし、いったん財産が遺言通り分配されれば、そこで役割は終了することになります。

裁判所は、財産が遺言通り分配されたことを見届けて、遺言執行者に法律で決められた金銭的な費用を支払うことで、相続手続きが終了することになります。

 

遺言執行者を選ぶときは慎重に

以上が遺言執行者の役割ですが、それなりに仕事をしなければなりません。それに、そもそもある程度どのような財産があるのかなどプライベートのことを知っている人の方が適任ということも言えると思います。

遺言執行者を指定するときも、以上の流れを考えて、誰にするかを決めてくださいね。

 

次回、新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
北朝鮮の情勢に不安を感じますが、平和な世の中を願ってまた一週間がんばっていきましょうね。




 

『遺言執行者になって欲しい。』どうする?[2]





法律ノート 第1054回 弁護士 鈴木淳司
April 17, 2017

しかし、今年の天候は異常で、ベイエリアは雨が多いです。あれだけ騒いでいた干ばつ問題が解決したのは良いことではありますが。雨だけではなく、例年に比べて花粉もすごいように思います。今までカラカラになっていた植物が、水を得て活発に活動しているのでしょうか。皆さんは、花粉対策に何をされていますか。

 

『遺言執行者になって欲しい。』どうする?[2]

さて、前々回から考えてきた質問を今回も考えていきましょう。
いただいている質問は「ベイエリアで、長期に渡って住んでいる者です。すでに、子供達は巣立っているのですが、子供の学校関係を通しておつきあいを長い間続けている夫婦から、遺言で遺言執行者になってくれないか、と打診を受けています。その夫婦のお子さんも大きくなり、日本に戻ってしまったため、今は、夫婦のみがカリフォルニアに住んでいる状況です。遺言の執行など、私はまったく知りませんが、できることなら力になってあげたいとも思っています。遺言執行者とはどのようなものなのか、教えていただけないでしょうか」というものです。

 

遺言執行者は遺言で指定

前々回考えたとおり、遺言執行者というのは、「ぼくの遺言の執行は君がなってくれ」と肩を叩かれるわけではなく、遺言に、執行者の名前を記載する方法を取ります。したがって、遺言の内容を見なければ、誰が執行者として指定されているのか、わからないわけです。

もちろん、遺言者も身内などには、遺言の内容を見せることもアメリカでは可能です。
したがって、執行者が誰になるのかは、事前に開示をすることはできます。
しかし、一般的に自分の遺言を見せて回る人はいないわけで、口頭で、「執行者に指名したよ」と伝えたりする程度になるのではないでしょうか。

また、遺言は、遺言者が一人で行う法律行為ですから、気が変わったらいつでも変更することができますので、いったん「執行者に指名したよ」と言われていても、蓋を開けてみたら、すなわち遺言を確認してみたら、別の執行者が設定されていたということもあるかもしれません。周りに、知り合いがいない場合もあります。その場合には、遺言の作成を頼む弁護士を執行者に指定する場合もあります。

 

遺言執行者、選任の流れ

さて、遺言執行者に選任されると、遺言者が生きている間には、何もすることはありません。遺言が発効するのは、遺言者が死亡したときですから、当たり前ではあります。

遺言者が死亡すると、信託が別途存在しない場合、相続財産の分配などの処理は、裁判所の手続きに乗せなければなりません。裁判所が財産管理をモニターしながら分配をしていくのです。この裁判所の手続きは、はやくても、6-9ヶ月かかります。この手続を避けるのも信託作成の一つのメリットと言われています。

あまり法律の手続きを難しく書いても、読者の方にとっては馴染みがないと思いますので、簡単に遺言者の死亡から、どのように遺言の内容が現実化していくのか、簡単に考えてみます。

 

遺言執行手続きの開始

まず、遺言を見つけた家族や、保管者が、その遺言を裁判所に提出します。その提出を受けて、裁判所が遺言執行の手続きをはじめます。裁判所が手続きを「はじめる」と言っても、関係者の請求に応じて判断をしていくことになりますので、自動的に裁判所が何かをやってくれると期待してはいけません。

次に、裁判所が遺言を確認すると、遺言執行者を遺言に沿って指定します。指定された人が拒否する場合などは、裁判所が遺言執行者を決めます。遺言執行者となった人は、裁判所から相続財産がどの程度あるのかを把握して、遺言に沿って、分配をするという役割を負います。

そして、その役割を負うことによって、法律で定められた報酬を得ることができます。

 

 

実際は弁護士との共同作業

ここで、遺言執行者となったとすると、法律にあまり詳しくない人が、いきなり裁判所に提出する書類を作成したり、審理に参加したりすることは難しいわけです。仕事を持っている人などは特にそうでしょう。

しかし、実際裁判所は遺言執行者にここまでの多岐にわたる業務を行うことを期待していません。ほとんどの場合には、遺言執行者となった人に弁護士がつくわけです。そして、その弁護士が実際の法律業務等必要なことをして、遺言執行者の代わりに業務を行うことになります。

次回、遺言執行者とその弁護士がどのような業務を行っていくのか具体的に考えていきましょう。

 

私の鼻と目がグズグズしていますが、みなさんも花粉に注意しながらまた一週間春を楽しんでいきましょうね。




 

20年の時は流れてー弁護士が見つめていることー




 
法律ノート 第1053回 弁護士 鈴木淳司
April 11, 2017

 
20年の時は流れてー弁護士が見つめていることー
 

今回は、前回考え始めた遺言執行人のトピックをいったん休ませていただき、私が感じたことを書かせていただければと思います。

この1週間は出張が立て続いて疲れていたのですが、気になる連絡が事務所にありました。ある日本人女性が遺言(それからトラスト)の内容を再考したいということでした。連絡FAXは、その女性の旦那さんから送られてきました。女性の名前を見て考えてみると、この女性の最初の依頼は1997年でしたので、20年前ということになります。出張から戻ってすぐに彼女に会いに行くことにしました。彼女の体調の関係で、私の事務所には容易に来られない様子でした。
この日本人女性は、身一つでアメリカに渡り日本人としては当時アメリカで成功された第一人者で、苦労を幸せに替えることに優れた女性でありました。名の通った方ですし、毅然としているのですが、一方で、とても心が暖かく、スポーツにも長けているスーパーウーマンでした。色々な大会で優勝をされている彼女は、当時から私にゴルフを強く勧めてくださっていたことを覚えています。人間というのは、どんなに着飾っても、話をしていれば内面が出てくるものです。女性は、服などに気を遣いますが、彼女は内面からの美しさが感じられて印象に残っています。
 

旦那さんの連絡では、彼女は、数度転んだりして骨折をして、なかなか出歩けない状況だと言います。ここでは書けないこともあるのですが、旦那さんが、彼女は遺言を書き換えたいと言っているといっても、ちょっと疑問に思うこともありました。私は、良くない予感を頭の中から腹の底に移動して、彼女にとにかく会いに行きました。

 

私が彼女と最初に目を合わせたときに、彼女は私のことがわからなかったように思います。事情があって旦那さんには席を外してもらい、彼女と二人になりました。彼女は、私が持参した花束を気に入ってくれて、話をしているテーブルに飾ってほしいと言い、私は指示に従いました。彼女は、一人では歩行器がなくして歩けません。二人きりになって、私は彼女がなぜ、遺言等を書き直したいのか聞きました。彼女からはっきりした答えは得られませんでした。彼女の記憶もあまりはっきりしていないことは明らかでした。英語で暮らしている彼女は、私の話す日本語にも鈍感になっているように思えました。色々な事情やしがらみがあるのですが、私は本人の意思が確認できない以上、財産の分配を大きく左右する書類の作成はその日見送ることにしました。医師の診断が必要かもしれません。20年前の彼女と今の彼女を見ながら、また根気強く彼女に会って話を聞かなくてはならないと思いを馳せていました。

 

今のサンフランシスコを見ると、数年毎にビジネスのサイクルが廻っていて、私はついていけないところがあります。就労のサイクルが2,3年でクルクル変わっていき、新しいものが「ベター」であるという風潮が当たり前になっています。しかし、一方で、20年間の時の流れを背負いながらやっていく職業もあるのです。

この女性は、もとバレリーナで、どんなに歳をとっても、背筋が伸びていました。今でもまったくかわかりません。そして、彼女に、色々過去の書類を見せていると彼女の記憶が色々蘇ってきて、楽しい話もできました。私は彼女からいただいていた日本語の手書きの手紙なども持っていったのですが、彼女はそれらをしげしげと眺めていました。

 

1999年に彼女が達筆で私に書いた手紙がありました。私が独立して事務所を構えたときに、お祝いをしてくれただけでなく、将来素晴らしい事務所にしてください、というエールが添えられていました。彼女にも20年弱経ってからその直筆の手紙を見てもらいました。彼女は、嬉しそうにその手紙を眺めていました。私は彼女が手紙に書いた通り、素晴らしい事務所にしたかどうかは疑問なのですが、少なくとも彼女のように、20年間も支えてくれる人があるから今の自分がいるのだな、と心底思いました。20年間って、なんだかはやいものですね。