車の急接近に驚いて転倒。運転手の責任は?[1]_1010


法律ノート 第1010回 弁護士 鈴木淳司
June 05, 2016




 

私は運転中に概ねニュースを聞いているのですが、最近なぜか日本のNHKが宣伝しています。日本では考えられないはずですが、海外ではNHKを聞いてください、とか、アプリを使ってください、という感じで宣伝しているので驚きました。
日本語ではなく英語を読み書きするオーディエンスを増やそうという試みでしょうか。日本の文化が世界的に広まれば日本にとってはかなりプラスになりそうです。

 

車の急接近に驚いて転倒。運転手の責任は問える?[1]

 

さて、今回から皆さんから新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。

いただいている質問をまとめると、「高齢の母と私が歩いているところ、急に車が来ました。それをよけたところ、逃げ切れず、母は転んで頭などを打ちました。目撃者がいたとしても、その車が、あくまでも直接母にぶつかっていない場合には、運転手には何の責任もないのでしょうか。」というものです。

いただいた質問には事故の瞬間がどのようなものであったのか、詳細がありませんので、いくつかのシナリオを考えなければいけないようです。

 

契約関係があるかないかー債務不履行と不法行為

 

基本的に、いわゆる「交通事故」というのは、難しい法律用語でいうと「不法行為」英米法では「Tort」という概念から責任が発生します。

簡単に説明しましょう。

たとえば、二人の人が契約を結んでいて、その契約内容に沿った約束の実行をしない場合には、債務不履行と呼んで、損害賠償が請求できます。
物を買ったのに、対価を払わない場合とか、家を借りているのに、家賃を払わない場合には、「債務不履行」となって、損害賠償を請求されてしまうのです。

 

契約関係にない当事者どうしには不法行為

 

「不法行為」というのは、二人の人がいた場合、その二人の間に契約がないのに、一方が他方に損害賠償の責任を負う場合を言います。

今回の質問を見てみると、質問者のお母様と車の運転手の間には契約はないと思われます。
しかし、運転手の行為に対して質問者のお母様は損害賠償を請求できるのかどうかという問題になるわけです。

お母様が転倒するまでは、会ったこともない運転手に対して、法律に基づいて損害賠償を請求するわけですから、単にお母様が転んだという事実だけではなかなか請求が難しいということを理解していただけると思います。

たとえば、道を歩いていたら目つきが悪い人がいて、怖い思いをしたから損害賠償を請求できるか、といえば難しいということがわかります。

 

 

不法行為によって損害賠償するにはー過失

 

不法行為という法律の概念を使って、被った損害を請求するためには、今回の質問でいえば、運転手に「過失(Negligence)」がなければなりません。

過失といっても、法律用語ですのでわかりにくいですが、簡単にいえば、本来であれば注意するべきことを注意しなかった、という意味があります。
一般的には、車の運転手には、車を安全に運転するという注意義務が課せられています。居眠り運転や、信号を守らないというのは、車を安全に運転していませんね。

同じように、今回の質問においても、運転手が、安全に運転をする注意を怠ったのかどうか、ということがポイントになります。かりに、注意を怠ったと言えれば、過失があると言えるので、不法行為責任を負います。

不法行為責任を負うということは、今回の質問者のお母様は、運転手に対して、損害賠償をすることができるということになるわけです。

 

不法行為によって損害賠償するにはー因果関係

 

まず、車は直接ぶつかっていなくても、運転手に過失が認められれば、損害を請求することは可能です。

ただし、運転手の行為によって、転んで怪我が発生したという流れが認められなければいけません。
難しい法律用語では「因果関係(Causation)」と言いますが、過失のある運転に起因して損害が発生している必要があります。

一般的に民事事件においては、かなり広く因果関係が認められるという傾向にあります。これは、日本でもアメリカでも変わりません。

因果関係が認められないような例を考えると簡単だと思います。「風が吹くと桶屋が儲かる」といった場合には、もともと風が吹くことに過失はありませんが、風が吹いて桶屋が儲かることについては、原因と結果の関係にはないので、因果関係は認められません。

実際の事件において、過失があるか、とか因果関係があるか、というのは、アメリカでは陪審制度によって決められ、日本では「社会通念」という、あるのだかないのだかわからない概念に基いて裁判所が決めます。

 

 

ここから次回続けていきたいと思います。

先週は夏のような日もありました。内陸部では、華氏100度を超える日もあったようです。夜は冷えますので、ぜひみなさん体調に気をつけてください。また、来週まで一週間がんばっていきましょうね。