外国人を被告人とする刑事事件と強制送還の可能性


February 19, 2008





 

 最近、寒い日が続きますね。ベイエリアも年明けからめっきり寒くなりました。スキーが好きな方には絶好のコンディションかもしれませんね。
今回は、私が担当した事件を使って、移民法の難しさを知っていただきたいと思います。

ベイエリアでは、ある畑違いの業者が非弁まがいの宣伝をして「移民サービス」を標榜していることが私の耳に入りました。弁護士など移民法業務には必要ない、ということを言っているそうです。そもそもやっていることが法律的に問題です。そういう非弁活動でお金を稼いでる本人は自分は良いのでしょうが、人生をかけてビザや永住権を取る人達が犠牲にならなければ良いと憂慮しています。
今回は、なぜ移民法でも弁護士としての法的判断が必要な場面があるのか、書類だけつくっているわけではない弁護士の業務を皆さんに感じていただきたいと思います。

 その刑事事件は重罪(Felony)で逮捕・起訴されてしまった日本人が被告人となっていました。カリフォルニア州地方裁判所に係属する事件です。弁護を受任して事件記録を読むと、罪名には、傷害罪、強盗罪、そして証人威迫罪の三罪が記載されていました。起訴事実をみると、目撃者もいて、かなり無罪に持っていくのは難しい事件でした。本人もある程度事実を認めているので、陪審裁判で闘うよりは、ある程度罪を軽くして、被害者と示談もする、というパターンの事件であるという方向性が考えられました。

 問題は、被告人は日本人で現在永住権の申請中でした。家族の付帯として永住権を取得する予定で、他の家族のメンバーは全員とれていますが、今回の被告人だけは、保留にされてしまい、移民局に出頭面接するように通知が来てしまいました。最近の移民局はコンピュータネットワークで、アメリカの各州の地方裁判所の事件記録まで読むことができます。ブッシュ大統領が多大なお金を「ナショナル・セキュリティー」に投資した結晶でしょうか。その日本人が移民局に呼び出されて、罪に関して認めると強制送還の対象になってしまいます。もし仮に強制送還になってしまうと、家族と離ればなれになってしまうだけではなく、再度のアメリカ入国が難しくなる可能性があります。

 移民法は連邦法であり、州法とは原則まったく関係がありません。二つ違う国の法律のようなものです。
 しかし、今回の被告人は外国人ですから、もしカリフォルニア州の裁判所で有罪判決がでると、その判決内容を連邦の行政機関である移民局が、永住権を発行するかどうかの判断材料として使えるのです。
 ですから、刑事事件の処理も、移民法に密接に関係するので、両方の法律を熟知する必要があります。

 移民法には道徳違背の罪(Crime of Moral Turpitude)というわけのわからない強制送還事由が規定されています。道徳違背とはなんだ、ということになりますが、条文で規定はありません。すなわち移民局は、行政機関としての裁量を行使して、いろいろな刑事事件の罪を道徳違背だとできることになります。この点、州の裁判所で罰金で終わるような罪でも道徳違背だと決定される可能性もあるわけです。罪の種類でも、麻薬関連と売春関連については明文で強制送還事由だと定められています。しかし、その他の刑事罰については、道徳違背の罪になる可能性があります。道徳違背の罪の内容というのは、明文で決められていませんから、主に判例に頼ってルールが生成されてきました。膨大な数のケースから、いろいろな種類の「道徳違背」がつくられてきました。

 今回の刑事事件の罪名は傷害、強盗、証人威迫罪ですが、うまく司法取引に持ち込んで、3つの罪のうち一つを認める、ということで、なんとか実刑を免れるようにできないかという方向に持って行けないか考えました。すなわち、移民法で2つ以上の重罪がつくと、その時点で強制送還が確定する可能性があります。これも道徳違背とは別のルールです。罪名をひとつにできれば、判例から解きほぐして、うまく道徳違背の罪を避けられるという可能性がでてくるからです。

 ここで、強盗と証人威迫罪は絶対に避けなくてはいけませんでした。道徳違背の罪と認定される可能性が大です。そこで、傷害罪について、司法取引が可能か検察と交渉することになりました。もちろん移民法のことばかりに気を払ってられませんから、刑事事件にしても、精神鑑定を請求したり、被害者と示談をしたりするように進めていきます。結局精神鑑定で、被告人に有利な鑑定結果が出され、実刑ではなく執行猶予付で精神医に通うという形に落ち着きそうでした。

 検察と私とである程度、罪の内容についても合意に達してきたとき、究極の問題が発生しました。被告人が起訴されている罪はカリフォルニア州刑法第245条(a)項という罪で、傷害罪でも、死傷を発生させる故意で傷害した、というおまけがついてきます。この「死傷を発生させる故意」があると、道徳違背の罪に移民法上ではなってしまいます。これでは私は受け入れることはできません。そこで、私は同刑法第243条(e)項の罪、武器を使用した暴行罪はどうかと提案しました。この243条(e)項であれば、判例上道徳違背の罪とはなっていません。もちろん絶対的に「大丈夫」とはいえません。将来、この事件が移民法上こじれて、たとえ現在243条(e)項は問題無しとされていても、判例が変わってしまうかもしれません。ただ、検察は、重罪から軽罪に落とすことは絶対にしないと言っている事件なので、どうしても、245条よりも243条の方が移民法的には有利だったのです。

 しかし、一方カリフォルニア州の刑法では、3ストライク法という制度が取り入れられています。日本では馴染みがないかもしれませんが、累犯に対して、三回暴力犯罪を犯した場合には必ず終身刑を言い渡さなくてはならないという厳しい制度です。カリフォルニア州の刑法で、どの罪がストライクとなるのか決められていますが、今回の場合は、245条の罪はストライクとカウントされず、一方243条の方はカウントされてしまいます。移民法的には243条の方が良いのですが、刑法的には245条がベターです。もし、243条の方を選択すると、次に暴力犯と認められると、二回目のストライクでも必ず裁判官は実刑を言い渡さなくてはなりません。

 究極の選択になりました。私は243条はストライクになるが、永住権の確保のために良いのではないか、ということをアドバイスはできますが、やはり最後にはクライアントである被告人が決めなくてはなりません。決めるために必要なのは刑法と移民法のアドバイスですね。私は長々と説明をし、理解をしてもらいました。最後には、結局243条の方を選択し、有罪を認めました。しかし、これほど刑法と移民法が「ねじれ現状」を起こす事例はなかなかないと思います。このように移民法だけを知っていてもアドバイスはできず、刑法だけ知っていてもアドバイスができないことをわかっていただけたのではないでしょうか。ですから、確かに移民法の業務は書面をつくったり書類を集めたりすることが多いのですが、ちゃんと法廷をやっていないと、生の事例をみることができず、正確な移民法上の判断もできないと私は思っています。

 付け加えると、刑法と移民法を知っておかなくてはなりませんが、このように日本人がアメリカで傷害を起こす事例では、実は日本の刑法においても定められています。すなわち刑法第3条の9号において、刑法第204条の傷害の罪は日本人が日本国外において罪を犯した場合には罰することができる、となっています。今回の事件は実刑は免れましたが、日本の刑法第5条において、外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない、と規定されていますから、本来であれば、ここまでアドバイスができることが弁護士には要求されているのだと思います。

今回はたくさん書きすぎました。読むのが大変でしたら申し訳ありません。
それでは、次回までさようなら。


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カテゴリー: 国際弁護士なブログ | 投稿日: | 投稿者:

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